畑と台所をもっと近い関係に

例えば、家の裏の自家用畑で家族が作った野菜、近所で野菜を作っている人からいただくおすそ分けの野菜・・・・。    

・新鮮で、ときどき少々の曲がりも、虫の跡もあるけど、やっぱり元気。
・葉っぱも皮も安心してまるごと食べられる。どんな風に育ったか教えてくれる。
・野菜から気候を感じ、またつくる人と食べる人が同じ気候のなかにいる。
・おいしく出来ると、喜び合える。

そんな、かつてはどこにでもあった関係、安心感、自然味のある野菜は、都市型生活の広がり、農業者人口の減少、流通の発達、いきすぎた栽培管理によって、手に入り難くなっています。

しかしそれを現代に合った仕組みや関係をつくることで、当たり前に、できれば毎日食べてもらいたい。そう思って野菜を作り、お届けしています。



食べる人と営む

1.畑が消費者にもたらすもの

環境に配慮した農業、消費者と畑の近い関係は、新鮮で安心な野菜をもたらすだけでなく、自然と関わりながら暮らす楽しさや、私達人間も自然の一部であるということを教えてくれ、食べることについて直接的に考える機会を与えてくれます。そしてそのような「野菜プラスアルファのメリット」を大切にし、伝えていきたいと考えます。

      

2.直接お届けする宅配会員システム

私たちの宅配は野菜を育てた私たちが、中間業者を通さないで直接定期的にお届けする会員制宅配です。会員になっていただき、定期的に野菜を配達できるということは、

1、お出しする野菜の保存方法、料理法のみでなく、どんな状況で育ち、また私たちがどのような育て方をしたのかお知らせすることが出来ます。

2、作付ける野菜の種類や量は、過去の作付け、畑の状態だけでなく、会員の方の声を取り入れて計画することが出来ます。

3、私たちが消費者の方たちを知る機会、私たち生産者について知っていただく機会を持つことが出来ます。

つまり、畑と生産者と消費者、それぞれを理解しあいながら運営しようとするものなのです。             

3.適正な価格をともに考えていきます

私たちは「『農』を持続可能にしていく為に生産者、消費者がともに『農』を支える」という考え方をとり入れています。

化学肥料、農薬を使用しないことや、小規模多品目栽培ゆえの手間は免れませんし、一農家ゆえに天候不順の影響など、生産性は低くなってしまうというリスクを負っています。そこで私たちは消費者の方からやさい会費としてお金をいただき、経済的に安定を図ることで、自然環境に配慮し、かつより元気な野菜をつくることに努めることができます。

もちろん技術面、経営面の努力で経費を低減させる努力も続けます。そして、消費者の方に長く続けてもらえるような価格や量を設定する為に対話を心がけたいと思います。

            

4.農に親しもう

雑木林での木の葉さらい(落ち葉かき)、じゃが芋やさつま芋収穫会、畑ツアーなど、土や農に触れる経験を通して、皆さんの口にする物がどのようにつくられるか知る機会をつくります。

また、野菜だよりやブログで畑や私たちの今の情報を伝えます。

私たちのつくる野菜を食べつづけているお客さんとの意見や質問のやりとりはより良い関係、仕組みづくりにかかせません。積極的にお伺いし、活かしていきたいと考えています。



里山を育て、使い、守る

関東の雑木林はその多くが全くの自然林ではなく、農業のために管理されてきた半人工林です。私たちの先人はこの林から日常的に薪や炭をつくり、落ち葉で堆肥を作って田畑に入れ、自然に生えるキノコや山菜、木の実などたくさんの恵みを生活に活かしてきました。少し前まで、雑木林は私たちの生活に本当に密着したものでした。


農業において、落ち葉の堆肥は保水性や保肥性、通気性などの土壌の物理性を高める作用があります。さらに微生物によってゆっくり分解されて野菜の肥料となってゆきます。同時に土中の微生物の活動を活発にしバランスのとれた健康な土をつくります。 雑木林は、田畑にこれらの恵みをもたらせてくれる大切な資源として先人たちによって守り育ててきた文化、とも言い得るものなのです。

『ベジファームの木の葉さらい』

ベジファームでは毎年落ち葉を2つの方法で集めています。1つは、宅配の会員のみなさんがご好意で庭や公園で集めてくださった落ち葉をいただくもの。もうひとつは、近隣の雑木林をお借りして冬の間に「木の葉さらい」(落ち葉さらいのこと)を行って集めることです。お客さんにも参加してもらっての木の葉さらいイベントも定着しつつあります。

『踏み込み温床』

「踏み込み温床」とは、落ち葉の発酵熱を使った伝統的な苗床です。

落ち葉+米ぬか+稲ワラ+籾殻+水

私たちは、毎冬、ワラと竹や鉄パイプで作った枠に、地元で集めた落ち葉など上の4つのものを混ぜ合わせ、「踏み込み温床」をつくります。
苗を並べられるようにしっかり足で踏み込んで作ります。混ぜるとすぐに発酵がはじまり、トマトやナスの苗を育てるのに十分な温度になります。
温度は次第に低くなりますが、「切り替えし」という、また一度崩して積みなおし、空気と触れさせることでもう一度発酵して暖かくなります。
1月末から2月初めのもっとも寒さの厳しい時期、この温床の熱で夏野菜の種は芽を出します。温床を利用してこの時期に夏野菜の苗作りを始めることで、長い期間、夏野菜の収穫ができるのです。

『踏み込み温床から堆肥へ』

苗床の役目を終えて、最低1年寝かせると、その間も微生物の働きによって分解が進み堆肥になります。(堆肥は有機物が無機物へと分解されているもので、その状態になることで植物は栄養を吸収しやすくなります。)そして今度は赤玉土などをまぜ、苗を育てる土として活用します。
左の写真は温床をつくり、1年寝かせたものです。枝はまだ未分解ですが、分解しやすい葉はさわると崩れてしまう状態になっています。

『持続的な農業と雑木林』

雑木林を落ち葉を集められる状態にしておくためには、毎年生えてくる笹を刈り、倒木を整理し、日光が適度に林床まで届くことによって多様な生き物が生息するように間伐を行い、落ち葉を集めすぎないなど、樹木が健康でいられるようにしなければなりません。
しかしそのような管理の中で、落ち葉や間伐材を活用すれば、雑木林も、そこに生息する生き物も絶えず、私たちはその恵みを享受し続けることができるわけです。
つまり雑木林の活用は、「私たちの身近にある再生可能な資源を利用する」という持続可能な農業の具体的な形であるのです。

しかし木の葉さらいで雑木林を活用する農家は年々少なくなり、荒れてしまった雑木林にはゴミが捨てられます。また市街地に近い林は開発され、雑木林と人々の関係ははますます希薄なものになります。
田畑の中に点在する雑木林は、四季折々に美しく懐かしい風景を見せてくれます。ベジファームはこの「雑木林と共生する持続可能な農業」を次世代へ伝えていきたいと考えています。

有機農業を伝える

私たちが有機農業を始めてから20年以上がたちました。私たちが目指したのは、そう大きなことではなく、人々が食べる野菜をおいしく作り、農業という仕事で普通にゆったり暮らしてゆきたい、昔自分が育った農村の風景の中で子供を育てたい、そんな個人的な思いでした。

この20年の経過の中で、私たちが見てきたものは、農業と農村の衰退そのものです。
農業では生活が成り立たないからと、後継者たちは他産業へ移動していきます。
私たち外から来た新規農業者にとっては、農地が借りやすくなったのですが、それ以上の速度で耕作放棄地が増加しています。
この国の食べ物はどうなってゆくのでしょうか? 誰が食糧生産を続けてゆくのでしょうか?何時まで海外から安い食料を供給できるのでしょうか。そしてまた、農村の中で、ゆったりと、しかし着実な仕事をしてゆくのはもう不可能なのでしょうか?

この現実は、農業に携わるものだけでなく、消費者の間にも不安を広げています。ただ安いだけの食品が、本当に命をつなげてゆくための食べ物なのか、その土地でゆったりと育てられた野菜やお米を食べることは出来なくなるのかと。
また、私たちのように都市から農村へ戻り、農業を志したい若者たちがたくさんいるにもかかわらず、彼らが農家になるには余りにも膨大なエネルギーと資金が必要です。農業に対する熱い思いを実現するための制度や仕組みが、この国には残念ながらありません。

ベジファームは農業を、「絶滅不可産業」と位置づけています。

私たちは今まで私たちが「有機農業」を営むことで培ってきた消費者の皆さんとの信頼関係、農業を志す若い人たちとの繋がり、安全安心へのこだわり、そういったものを私たち限りで終わりにして老後を迎えることを、潔しとしませんでした。何とかこの確かな関係性を、持続するものにできないか考えました。
その結果として、2008年会社化を選択しました。

そしてベジファームは次のことを農業の未来のために行っていきたいと考えています。
・農業を志す若者に所得を保証し、有機農業を伝え、広める。
・安全でおいしい野菜の生産を継続して、消費者の方々との絆を深め、有機農業の大切さを伝える。

この国から農家がいなくなっても、誰かが人々のために食糧を作らなければなりません。石油やコンピューターでお米や野菜は出来ません。誰かがやらなければいけないこの仕事を、ベジファームは、消費者の方々と一緒に繋げてゆきたいと思います。

2011年8月 株式会社ベジファーム 代表 中屋 末人